と命じた。さて妻が子に食を与え隣家へ舂《うす》つきに往くとて、子を伴れ行くを忘れた。子の口が酥酪《そらく》で香《にお》うを嗅《か》ぎ付けて、毒蛇来り殺しに掛かる。那倶羅の子我父母不在なるに蛇我弟を殺さんとするは忍ぶべからずと惟《おも》い、毒蛇を断って七つに分ち、その血を口に塗り門に立ちて父母に示し喜ばさんと待ちいた。婆羅門帰ってその妻家外にあるを見、予《かね》て訓《おし》え置いたに何故子を伴れて出ぬぞと恚《いか》る。門に入らんとして那倶羅子の唇に血着いたのを見、さてはこの物我らの不在に我児を※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]い殺したと合点し、やにわに杖で打ち殺し、門を入ればその児庭に坐し指を味おうて戯れおり、側に毒蛇七つに裂かれいる。この那倶羅子我児を救いしを我善く観《み》ずに殺したと悔恨無涯で地に倒れた。時に空中に天あり偈《げ》を説いていわく、〈宜しく審諦に観察すべし、卒なる威怒を行うなかれ、善友恩愛離れ、枉害《おうがい》信に傷苦〉と。那倶羅(ナクラ)は先年ハブ蛇退治のため琉球へ輸入された英語でモングースてふイタチ様の獣で、蛇を見れば神速に働いて逃さずこれを殺す。その行動獣類
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