》だったは奇態だが、これすなわちアイヌ人が多く雑居した奥羽地方で、鶏を神異の物と怪しんで崇拝した理由であるまいか。西半球にはもと鶏がなかったから、その伝説に鶏の事乏しきは言うを俟《ま》たず。
前に鶏足の事を説いた時に言い忘れたからここに述べるは、ビルマのカレン人の伝説に、昔神あり、水牛皮に宗旨と法律を書き付けてこの民を利せんとし一人に授く、その人これを小木上に留め流れを渡る。暫くありて帰り見れば犬その巻物を銜《くわ》えて走る。これを追うと犬巻物を落す。その人拾いにゆく間に鶏来って足で掻き散らし、字が読めなくなった。神書に触れたもの故とあって、カレン人は鶏の足を尊べど、その身を食うを何とも思わぬ。戸の上また寝床の上に鶏足を置いて、土中と空中に棲む悪鬼シンナを辟《さ》くと(一八五〇年シンガポール発行『印度群島および東亜雑誌』四巻八号四一五頁、ロー氏説)、支那では蒼頡《そうけつ》が鳥の足跡を見て文字を創《はじ》めたというに、この民は神が書いた字を鶏が足で掻き消したと説くのだ。
[#地から2字上げ](大正十年三月、『太陽』二七ノ三)
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前項に書いたほかにまだまだ弥勒《み
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