伝』五に、馬鳴《めみょう》菩薩|華氏城《かしじょう》に遊行教化せし時、その城におよそ九億人ありて住す。月支《げっし》国王名は栴檀《せんだん》※[#「罘」の「不」に代えて「厂+(炎+りっとう)」、第4水準2−84−80]昵※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]《けいじった》、この王、志気雄猛、勇健超世、討伐する所|摧靡《さいひ》せざるなし、すなわち四兵を厳にし、華氏城を攻めてこれを帰伏せしめ、すなわち九億金銭を索《もと》む。華氏国王、すなわち馬鳴菩薩と、仏鉢《ぶつばつ》と、一の慈心鶏を以て各三億金銭に当て、※[#「罘」の「不」に代えて「厂+(炎+りっとう)」、第4水準2−84−80]昵※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]王に献じた。馬鳴菩薩は智慧殊勝で、仏鉢は如来《にょらい》が持った霊宝たり。かの鶏は慈心あり。虫の住む水を飲まず。ことごとく能く一切の怨敵《おんてき》を消滅せしむ。この縁を以て九億銭の償金代りに、この三物を出し、月支国王大いに喜んで納受したそうだ。これは実に辻褄の合わぬ噺《はなし》で、いわゆる慈心鶏が一切の怨敵を消滅せしむる威力あらば、平生厚く飼われた恩返しに、な
前へ 次へ
全150ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング