ゼ・メラネシアンス』に、癩人島の俗譚に十の雛《ひな》もてる牝鶏が雛をつれて食を求め、ギギンボ(自然薯の一種)を見付けるとその薯根|起《た》ち出て一雛を食うた。由って鳶を呼ぶと鳶教えて一同を自分の下に隠す、所へ薯来って、鳶汝は鶏雛の所在を知らぬかと問うに、知らぬと答え、薯怒って鳶を詈《ののし》る。鳶すなわち飛び下って薯を掴《つか》み、空を飛び舞いて地へ堕《おと》すを、他の鳶が拾うて空を飛び廻ってまた落すと、薯二つに割れた。それを二つの鳶が分ち取ったから薯に味良いのと悪いのがあるようになったというと記す。面白くも何ともない話だが、未開の島民が薯に良し悪しあるを知って、その起因を説くため、かかる話を作り出したは理想力を全然|闕如《けつじょ》せぬ証左で、日本とメラネシアほど太《いた》く距《へだ》たった両地方に、偶然自然薯と鳶の話が各々出で来た。その偶合がちょっと不思議だ。
 鶏を入れた笑談を少し述べると、熊野でよく聞くは、小百姓が耕作終って帰りがけに、烏がアホウクワと鳴くを聞いて、鍬《くわ》を忘れたと気付き、取り帰ってさすがは烏だ、内の鶏なんざあ何の役にも立たぬと誹《そし》ると、鶏憤ってトテコ
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