今の箭大臣はこの二神なるべしと『広益俗説弁』にあれど、『旧事紀』は正書でないから虚説で、その実仏寺の二王門を守るに倣いて作ったのだ)や、百人一首で稚《おさ》な馴染《なじみ》の業平《なりひら》の冠に著けた鍋取《なべとり》によく似た物を黒革作りで高帽の一側に著けあり。中には金魚が落雁《らくがん》を食ったような美少年も多く、南方先生「大内の小さ小舎人《ことねり》ててにや/\」てふ古謡を臆《おも》い起し、寧楽《なら》・平安古宮廷の盛時を眼前に見る心地して、水ばなとともに散り掛かるプラタヌスの下に空腹ながら時ならぬ春を催しやした。かくてあるべきにあらざれば下宿へ還って『用捨箱《ようしゃばこ》』を繙《ひもと》くと「鍋取公家《なべとりくげ》というは卑しめていうにはあらず、老懸《おいかけ》を掛けたるをいえるなり、老懸を俗に鍋取また釜取《かまとり》ともいう」とある。釜取という名からまた先刻見た美少年どもを想い出したのも可笑《おか》しい。「さて今|厨《くりや》にて鍋取を用うる家たまたまあれども草鞋《わらじ》足半《あしなか》の形に作れり、古製は然《しか》らず。小さき扇の形したるが、かの老懸に似たる故に然《し
前へ 次へ
全150ページ中130ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング