誠奉仕し、鬼王歓を尽くして地に還る。真の帝釈、宮に帰って窓より鬼王が望みを果して地に還れるを見、大いに怒ってヤモリに向い、今後一定時に小さい緑色の虫汝の体に入り、心肝二臓を啖《くら》うぞと言うたので、ヤモリはいつもさような苦しみを受くる事となった。かくて帝釈は、天女どもを鬼王に犯されたと思うと焼けてならず、天帝に訴える。そこで天帝、帝釈の魂を二分し、一を天上に留め、他の一を地に下して、羅摩と生まれて、ランカを攻めて鬼王を誅せしめたとあるが、これはラーマ王物語を回教徒が聞き誤った一異伝で、果してこの通りだったら、羅摩は前生帝釈たりし時、妃妾を鬼王に犯され、その敵討《かたきう》ちに人界に生まれて、またその后シタを鬼王に奪われ、色事上返り討ちに逢ったヘゲタレ漢たるを免れぬ。件《くだん》のヤモリはその鳴き声に因ってインドでトケー、インドシナでトッケと呼ばる。わが邦で蜥蜴をトカゲというに偶然似て居る。また支那でヤモリを守宮というは、件《くだん》の『回教伝説』にヤモリ帝釈宮門を守るというに符合する。この属の物は多く門や壁を這うからどこでも似た名を付けるのじゃ。それに張華が、蜥蜴、あるいは※[#「虫
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