民が屋上に供えた稲稷甘蔗等を食い頬に貯えて去る。万一これを供えざれば大いに瞋《いか》って瓦を破ると述べた。されば今日もビナレスの寺院にハヌマン猴を夥しく供養し、また諸市のバザーに入って人と対等で闊歩し、手当り次第|掴《つか》み歩く。紀州田辺の紀の世和志と戯号した人が天保五年に書いた『弥生《やよい》の磯《いそ》』ちゅう写本に、厳島《いつくしま》の社内は更なり、町内に鹿夥しく人馴れて遊ぶ、猴も屋根に来りて集《つど》う。家々に猴鹿の食物を荒らさぬ用意を致すとあるを見て、インドでハヌマン猴の持てようを想うべし。タヴェルニエーまたサルセッテ島にハヌマン猴王の骨と爪を蔵する銀棺を祀れる塔あり、インド諸地より行列して拝みに来る者引きも切らざりしを、ゴアの天主教大僧正押して取る、ヒンズー教徒莫大の金を以て償わんと乞い、ゴアの住民これを許しその金を以て軍を調《ととの》え貧民を扶《たす》くべしと議せしも聴《き》かれず、これを焼けばその灰を集めてまた祀るを慮《おもんぱか》り、棺を海上二十里|漕《こ》ぎ出し海に沈めたと述べた。
『ラーマーヤナ』は誰も知った通りヒンズー教の二大長賦の一つで、ハヌマン猴王実にその
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