に用ゆ。実も条《ゆず》に似て冬熟すれば甘美なり。『本草啓蒙』にその細子|罌粟《けし》子のごとし。下種して生じやすしとあれど、紀州などには山中に多きも少しも栽培するを見ず。しかし平安朝廷の食膳を記した『厨事類記《ちゅうじるいき》』に※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴桃を橘《たちばな》や柿とともに時の美菓に数えたれば、その頃は殊に賞翫したのだ。『本草綱目』三三に、その形梨のごとくその色桃のごとし、而して※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴喜んで食う故に※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴梨とも※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴桃とも名づくとあれば、邦名サルナシは支那名を和訳したのか。それからサルガキとて常の柿と別種で実小さいのがある。漢名君遷子、この柿の渋が養蚕用の網を強めるに必要で、紀州では毎年少なからず信州より買い入るを遺憾に思い、胡桃沢勘内氏民俗学の篤志家で文通絶えざるを幸い、その世話で種を送りもらい植え付けて後|穿鑿《せんさく》すると、紀州の山中処々に野生があった。それを培養せぬ故古来無用の物になりいたのだ。邦人の
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