』二六ノ五)

     (三) 民俗

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 さきに猴酒の事海外に例あるを聞かぬと書いたは千慮の一失で、『嬉遊笑覧』十上に『秋坪新語』忠州山州黒猿|善《よ》く酒を醸《かも》す事を載す。※[#「けものへん+胡」、72−4]※[#「けものへん+孫」、72−4]酒といえり、みさごずしに対すべしとあれば海外またその話ありだ。なお念のため六月発行『ノーツ・エンド・キーリス』十二輯六巻二九五頁へ和漢のほかに猴酒記事の例ありやと問いを出し置いたが、博識自慢の読者どもから今にこれというほどの答えが出ず。唯一のエフ・ゴルドン・ロー氏の教示に、猴酒は一向聞かぬが英語で猴の麪包《パン》(モンキース・ブレッド)というのがある。バオバブ樹の実を指《さ》す、またピーター・シンブルの話に猴吸い(サッキング・ゼ・モンキー)といえるは、椰子《やし》を割って汁を去りその跡へラム酒を入れて呑むをもいえば、樽《たる》に藁《わら》を挿《さ》し込んで酒を引き垂らすをもいう。俗にこれを猴のポンプとも名づくとあってまず猴が酒を作る話は日本と支那のほかにないらしい。件《くだん》のバオバブ一名猴の麪包の木はマレー群島の
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