の猴も同様でこれを猿子眠りというのだろ。頼光《らいこう》が土蜘蛛《つちぐも》に悩まさるる折、綱、金時《きんとき》が宿直《とのい》する古画等に彼輩この風に居眠る体を画けるを見れば、前に引いた信実の歌などに深山隠《みやまがく》れの宿直猿《とのいざる》とあるは夜を守って平臥せぬ意と見ゆ。眼が見えぬからのみでなく、樹上に夜休むに防寒のためかくして眠るのだろ。ロバート・ショー『高韃靼行記』に一万九千フィートの高地で夜雲に逢うた記事あっていわく、こんな節は跪《ひざまず》いて下坐し、頭を両膝間に挟《はさ》むようにして、岸に凭《もた》せ、頭から総身を外套で洩《も》れなく被い、風強からずば外套内を少し脹《ふく》らせ外よりも暖かい空気を呼吸するに便にす、ただし足最も寒き故自身の諸部をなるべく縮める、かくして全夜安眠し得べし、外套だけ被って足を伸ばし臥《ね》ては束の間も眠られぬと。これすなわち猿子眠りだ。予はこれを知らず高山に寒夜平臥して足を不治の難症にしおわったから、記して北荒出征将士の参考に供う。このついでに第四図に示すロリスはもっとも劣等な猴で、南インドとセイロンに産し夜分忍び歩いて虫鳥を食うために至
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