顔色を言う、すなわち艶はその光なり、美の尤《ゆう》なるは、必ず光気ありて人を動かす、三字ついに後世美人を賦して俑《よう》と為す〉とあれば飛び切りの代物だ。それから孔父を攻め殺してその妻を奪い、主君|殤公《しょうこう》の怒るを懼《おそ》れついにこれを弑《しい》したというから、二教ともに眼ほど性慾を挑発するものなしとしたのだ。しかるに『十善法語』にも見える通り、仏教には細滑というて肌に触《さわ》るを最も強く感ずるとす。されば仙人、王女の軟らかな手で抱かれ、すなわち神足を失い、食事済んで飛び去らんとすれど能わず。その体《てい》南方先生外国で十五年仙人暮しで大勉強し、ロンドン大城の金粟如来《こんぞくにょらい》これ後身と威張り続け、大いに学者連に崇《あが》められたが、帰朝の際ロンドン大学総長から貰《もろ》うた金を船中で飲み尽し、シンガポールへ著きて支那料理を食いたいが文なしの身の上、金田和三郎氏(只今海軍少将か大佐)に打ち明かし少々借り倒して上陸し、十町も過ぎぬ間に天草生まれのへちゃ芸妓を見て曰く、美にして艶なりと、たちまち鼠色の涎《よだれ》を垂らし、久米《くめ》仙人を現じて車より堕《お》ち掛っ
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