く、その線条|粗《あら》き上ひびわれ多く刺はなし、その肉煙草の味あり、喫烟家|嗜《この》み啖《くら》う。方言これをショボシと称う。『和漢三才図会』四六に、玉※[#「王+兆」、第4水準2−80−73]俗いうタイラギ、またいう烏帽子《えぼし》貝と出づるを見れば、真のタイラギより小さい故小帽子の意でショボシの名あるか。余の所見を以てすれば、『紀伊続風土記』にいえるごとく、タチガイは二種ともタイラギと別物で殻の色黒からず淡黝黄だが、いずれも形はよく似居る。新庄でいうヒランボすなわち真のタチガイが『古事記』に見えた猿田彦を挟んで溺死せしめた介で、ヒランボはその文にいわゆるヒラブ貝なる名の今に残れるものたるや疑いを容れず。宣長がヒラブ貝はもしくはタイラギかと推せしは中《あた》りおり、なお国々の人に尋ねたら今も古名の残った所もあるべしというたが、果して紀州西牟婁郡新庄村に残り居るのだ。猴の話と縁が遠いが、『古事記』は世界に多からぬ古典で、その一句一語も明らめずに過すは日本人の面目を汚す理窟故、猿田彦に因んでヒラブ貝の何物たるを弁じ置く。さて猿田彦が指を介に挟まれ苦しむうち潮さし来り、溺れて底に沈みし
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