で苔など探し居ると、負傷した蝮が孑孑《ぼうふり》様に曲り動いて予の足もとに滑り落ち来れるに気付き、再び念入れて打ち絶やした事三、四回ある。したがって俗伝の野槌は、かように落ち来る蝮から生じた譚で、あるいは上世水辺の蛇を、ミヅチすなわち水の主、野山の蝮をノヅチ野の主と見立てたのかとも思う。ただし野槌に似た動物が、実際世界にないでなく、例せばウロペルチス(円盾《ペルタ》状の尾の義)の一族およそ四十種、南インドとセイロンに産す。山林の土中に棲み、眼至って小さく、両齶に歯あり、尾甚だ短く太く、斜めに截《き》り取られたようで、その端円盾のごとく、その表面|粗《あら》し。それを地に押し著けて歩く、その状あたかも古欧州の軍士が円盾を手で使い分けたごとく、わが邦人に解るように言うなら、塚原老翁が鍋蓋を以て宮本武蔵と立ち廻ったごとしだ。紀州でモッコクの木を食う蠹《きくいむし》に、ちょうど同様の尾を同様に使うのがあるが何というものか知らぬ。予はウロペルチスの生きたのを見た事なけれど、類推すると余り活溌なものでなかろうが、周章《あわて》る時は孑孑様に騒ぎながら、岸より落ちて人を驚かすほどの事はあろう。
 支
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