して長《たけ》ただ二尺余、その行くや跳び躍る、逢々として声あり、人を螫《さ》し立ちどころに死す〉とあると同物だろうという。予が聞き及ぶところ、野槌の大きさ形状等確説なく、あるいは※[#「鼬」の「由」に代えて「晏」、第3水準1−94−84]鼠《もぐらもち》様の小獣で悪臭ありというが、『沙石集』の説に近い。あるいは、長五、六尺で面桶《めんつう》ほど太く、頭が体に直角をなして附した状、槌の頭が柄に著いたごとしといい、あるいは長二尺ほどの短大な蛇で、孑孑《ぼうふり》また十手を振り廻すごとく転がり落つとも、馬陸《やすで》ごとく環曲《まがっ》て転下すともいい、また短き大木ごとき蛇で大砲を放下するようだから、野大砲《のおおづつ》と呼ぶ由を伝え、熊野広見川で実際見た者は、蝌斗《かえるこ》また河豚《ふぐ》状に前部肥えた物で、人に逢わば瞋《いか》り睨み、大口開きて咬まんとする態すこぶる滑稽《おどけ》たりといった。日高郡川又で聞いたは、この物|倉廩《くら》に籠《こも》る事往々ありと。また大和丹波市近処に捕え来て牀下《ゆかした》に畜《か》うと、眼小さく体|俵《たわら》のように短大となり、転がり来て握り飯を食う
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