欲発動の節至って、匹偶《つれあい》を求むるよりの事かと惟う。諸邦殊に熱地にはこんな事多かるべく、伏蔵ある所においてするもしばしばなるべければ、したがって蛇王宝玉を持つ説も生じただろう。アルメニア人信ずらく、アララット山の蛇に王種あり、一牝蛇を選んで女王と立つ。外国の蛇群来り攻むれど、諸蛇脊に女王を負う間は、敵敗れ退く。女王睨めば敵蛇皆力を失う。この女王蛇口にフルてふ玉を含み、夜中空に吐き飛ばすと、日のごとく輝くと。これいわゆる蛇の長競べが、海狗《オットセイ》や蝦蟆《がま》同様、雌を争うて始まるを謬《あやま》り誇張したのだ。
『甲子夜話』八七に、文政九年六月二十五日、小石川三石坂に蛇多く集まり、重累《かさな》りて桶のごとし、往来人多く留まり見る。その辺なる田安殿の小十人の子、高橋千吉十四歳いう、箱のごとく蛇の重なりたる中には必ず宝ありと聞くとて、袖をかかげ右手を累蛇の中に入れたるに肱《ひじ》を没せしが、やや探りて篆文《てんぶん》の元祐通宝銭一文を得、蛇は散じて行方知れずと。田舎にては蛇塚と号《な》づけて、往々ある事とぞとありてその図を出だし、径《わたり》高さ共に一尺六、七寸と附記す(第一
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