》って蛇穴に入った黒蛇蜂に螫され痛みに堪えず、穴を出でしを羊角で抄《すく》うて呪師の前に置いた。呪師蛇に向い、汝かの犢を舐《ねぶ》って毒を取り去るか、それがいやならこの火に投身せよと言うと蛇答えて、彼この毒を吐いた上は還《また》これを収めず、たとい死ぬともこの意《こころ》を翻さぬと言いおわって毒を収めず自ら火に投じて死んだが舎利弗に転生《うまれかわ》った。死苦に臨むもなお一旦吐いた毒を収《とりい》れず、いわんや今更に棄つるところの薬を収めんやと。『十誦律毘尼序《じゅうじゅりつびにじょ》』にこの譚の異伝あり。大要を挙げんに、舎婆提《しゃばてい》の一居士諸僧を請《しょう》ぜしに舎利弗上座たり。仏の法として比丘の食後今日は飲食美味に飽満たりや否やと問う定めだったので、僧ども帰りて後仏が一子|羅喉羅《らごら》その時|沙弥《しゃみ》(小僧)たりしにかく問うに得た者は足り得ざる者は不足だったと答えた。仔細を尋ぬるに上座中座の諸僧は美食に飽きたが、下座と沙弥とは古飯と胡麻滓《ごまかす》を菜に合せて煮た麁食《そしょく》のみくれたので痩《や》せ弱ったという。仏舎利弗は怪《け》しからぬ不浄食をしたというを
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