※[#「虫+冉」、225−13]蛇嶺南に生ず、大なるは五、六丈、囲り四、五尺、小なるも三、四丈を下らず〉とあるが、『エンサイクロペジア・ブリタンニカ』十一版に南米熱地産なるアナコンダに次いで諸蛇の最大なるものとあり。アはベーツ説に四十フィートに達するそうだが、ピゾン・レチクラツスは三十フィートまで長ずというから『本草』の懸値《かけね》は恕《ゆる》すべしで、実に東半球最大の蛇だ。さて『本草』に〈身斑紋あり、故に錦纈《きんけつ》のごとし春夏山林中にて鹿を伺いてこれを呑む云々〉とあるは事実で、その肉や胆《い》の薬効を『本草』に記せると実際旅行中実験した欧人|輩《ら》の話とが十分二者を同物とする拙見を扶《たす》け立たしむ。マルコ・ポロ南詔国《なんしょうこく》の極めて大きな蛇を記して「その長《たけ》三丈ほど、太さ大樽のごとく、大きな奴は周り三尺ばかり、頭に近く二前脚あり、後足は鷹また獅子の爪ごとき爪でこれを表わすのみ、頭すこぶる大きく眼は巨なる麪麭《パン》より大きく、口広くして人を丸嚥《まるの》みにすべく歯大にして尖《とが》れり、これを見て人畜何ぞ戦慄せざらん、日中は暑ければ地下に躱《かく》れ夜出て食を覓《もと》め、また河や湖泉に行き水を飲む、その身重き故行くごとに尾のために地|凹《くぼ》む事大樽に酒を詰めて挽《ひ》きずりしごとし、この蛇往還必ず一途に由る故、猟師その跡に深く杭《くい》を打ち込み、その頂に鋭き鋼《はがね》の刃|剃刀《かみそり》様なるを植え、沙《すな》もて覆うて見えざらしむ。かかる杭と刃物を蛇跡へ幾つも設け置いたと知らないかの蛇は、走る力が速ければ刃の当りも強くしてやにわに落命してしまう、烏これを見て鳴くと、猟師が聞き付け走り来ると果して蛇が死んでおり、その胆を取りて高価に售《う》る。狂犬に咬まれた者少しく服《の》まば即座に治る、また難産や疥癬に神効あり、その肉また甘《うま》ければ人好んで購《あがな》い食う」と言った。『淮南子《えなんじ》』に、越人※[#「虫+冉」、226−14]蛇を得て上《よき》肴《さかな》となせど中国人は棄て用いるなし。『嶺表録異』に、晋安州で※[#「虫+冉」、226−15]蛇を養い胆を取りて上貢としたと載せ、『五雑俎』に、〈※[#「虫+冉」、226−16]蛇大にして能く鹿を呑む、その胆一粟を口に※[#「口+禽」、226−16]《ふく》めば、
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