さん事を切願すれど与えず、髪を小豆納《あずきいれ》の壺中に蔵《かく》す。爾来彼童僕となって田作す、そのうち主人小豆|蒔《ま》くとて、童をして壺《つぼ》より取り出さしむると、自分の髪を見附け、最《いと》重き小豆一荷持って主人に詣《いた》り、告別し去った、この童はブフット鬼だったという。ブフットすなわち上に引いた部多《ヴェータラ》かと思うが、字書がなき故ちょっと判らぬ、とにかくこれも如意使者の一種、至って働きのない奴《やつ》に相違ない。
 これでまず竜宮入り譚の瑣末《さまつ》な諸点を解いたつもりだ。これより進んでこの譚の大体が解るよう、そもそも竜とは何物ぞという疑問を釈こう。

     竜とは何ぞ

 昔孔子|老※[#「耳+(冂<はみ出た横棒二本)」、第3水準1−90−41]《ろうたん》を見て帰り三日|談《かた》らず、弟子問うて曰く、夫子《ふうし》老※[#「耳+(冂<はみ出た横棒二本)」、第3水準1−90−41]を見て何を規《ただ》せしか、孔子曰く、われ今ここにおいて竜を見たり、竜は合《お》うて体を成し散じて章を成す、雲気に乗じて陰陽は養わる、予《われ》口張って※[#「口+脅」、144−
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