み尽くし得べきと。太子|対《こた》えて、〈もし人至心にして所作事あるを欲せば、弁ぜざるなし、我この宝を得まさに用いて一切群生を饒益し、この功徳を以て用いて仏道を求むべし、わが心|懈《おこた》らず、何を以て能わざる〉と言ったので、海神その精進強力所作に感じ、珠を還し、その根性強さでは、汝必ず後身|成道《じょうどう》すべき間、その時必ず我を弟子にしてくれと頼んだ、大施太子は今の釈迦で、海神は離越これなりとある(『賢愚因縁経』八)。
 さて、海王が視《み》に遣った民が還って、陸王は海を汲むに決して急がず、毎卒日に一桶ずつ汲むと告げたので、海王しからば降参と決し、使をシャーに遣わした。その使の言語一向分らぬから、シャーこれを牢舎し、一婦をその妻として同棲せしめると子が出来た、その子七歳になり、海陸両世界の語を能くすから、これを通弁として、海王の使がシャーの前に出で、海王降参の表示《しるし》として、何を陸王に献《たてまつ》るべきやと問うと、百ガルヴァルだけ糧食《かて》を上《たてまつ》れと答う。使これを海王に報ずると、大いに困って、われは大海所有一切の宝を献るべきも、百ガルヴァルてふ莫大の食料は持
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