ぞっとさせる底の珍譚山のごとく、上は王侯より下|乞丐《こつがい》に至るまで聞いて悦腹せざるなく、ロンドンに九年|在《い》た中、近年大臣など名乗って鹿爪らしく構え居る奴原《やつばら》に招かれ説教してやり、息の通わぬまで捧腹《ほうふく》させ、むやみに酒を奢《おご》らせる事毎々だったが、それらは鬼が笑う来巳の年の新年号に「蛇の話」として出すから読者諸君は竜の眼を瞼《みは》り蛇の鎌首を立て竢《ま》ちたまえというのみ。ついでに言う、秀郷の巻絹や俵どころでなく、如意瓶《にょいがめ》とて一切欲しい物を常に取り出して尽きぬ瓶を作る法が『大陀羅尼末法中一字心呪経』に出で居る、慾惚《よくぼ》けた人はやって見るが宜《よろ》しい。(大正三[#「三」に「ママ」の注記]年十二月六日起稿、大竜の長々しいやつを大多忙の暇を窃《ぬす》んで書き続け四[#「四」に「ママ」の注記]年一日夜半成る)[#地から2字上げ](大正五年三月、『太陽』二二ノ三)



底本:「十二支考(上)」岩波文庫、岩波書店
   1994(平成6)年1月17日第1刷発行
   1997(平成9)年10月6日第10刷発行
底本の親本:「南方熊楠全集第
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