の竜王仏説法を聴くとあり、『経律異相』四八に、竜に卵生・胎生・湿生・化生の四あり、皆先身|瞋恚《はらたて》心《こころ》曲《まが》り端大《たんだい》ならずして布施を行せしにより今竜と生まる、七宝を宮となし身高四十里、衣の長さ四十里、広さ八十里、重さ二両半、神力を以て百味の飲食《おんじき》を化成すれど、最後の一口変じて蝦蟇《がま》と為《な》る、もし道心を発し仏僧を供養せば、その苦を免れ身を変じて蛇※[#「兀+虫」、第4水準2−87−29]《へびとかげ》と為るも、蝦蟇と金翅鳥《こんじちょう》に遭わず、※[#「元/黽」、第4水準2−94−62]※[#「(口+口)/田/一/黽」、146−16]《げんだ》魚鼈《ぎょべつ》を食い、洗浴《ゆあみ》衣服もて身を養う、身相触れて陰陽を成す、寿命一劫あるいはそれ以下なり、裟竭《さがら》、難陀等十六竜王のみ金翅鳥に啖われずとある。金翅鳥は竜を常食とする大鳥で、これまた卵胎湿化の四生あり、迦楼羅《かるら》鳥王とて、観音の伴衆《つれしゅ》中に、烏天狗《からすてんぐ》様に画かれた者だ。これは欧州やアジア大陸の高山に住む、独語でラムマーガイエル、インド住英人が金鷲《ゴルズン・イーグル》と呼ぶ鳥から誇大に作り出されたらしい、先身高慢心もて、布施した者この鳥に生まる。
『僧護経』にいわく竜も豪《えら》いが、生まるる、死ぬる、婬する、瞋《いか》る、睡《ねむ》る、五時《いつつのとき》に必ず竜身を現じて隠す能わず。また僧護竜宮に至り、四竜に経を教うるに、第一竜は黙って聴受《ききとり》、第二竜は瞑目《ねむりて》口誦《くじゅ》し、第三竜は廻顧《あとみ》て、第四竜は遠在《へだたっ》て聴受《ききとっ》た、怪しんで竜王に向い、この者ら誠に畜生で作法を弁えぬと言うと、竜王そう呵《しか》りなさんな、全く師命《しのいのち》を護らん心掛けだ、第一竜は声に毒あり、第二竜は眼に毒あり、第三竜は気に、第四竜は触《さわ》るに毒あり、いずれも師を殺すを虞《おそ》れて、不作法をあえてしたと語った。また竜の三患というは、竜は諸鱗虫の長で、能く幽に能く明に、能く大に能く小に、変化極まりなし、だが第一に熱風熱沙|毎《いつ》もその身を苦しめ、第二に悪風|暴《にわ》かに起れば身に飾った宝衣全く失わる、第三には上に述べた金翅鳥に逢うと死を免れぬ、それから四事不可思議とは、世間の衆生いずこより生れ来り
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