らい難く、悪性の者なり、なお人間悪性の下にありて、駆使を受くといえども、常に過失多きがごときなり〉。『亜喇伯夜譚《アラビヤンナイツ》』に名高いアラジンが晶燈《ランプ》さえ点《とぼ》せば現れた如意使者、グリンムの童話の廃兵が喫烟《きつえん》するごとに出て、王女を執り来った使者鬼など、万事主人の命に随うたが、『今昔物語』の宮迦羅同前、余りに苛酷に使えば怒りて応ぜず、また幾度も非行をし過すに、不同意だったと見える。秀郷の心得童子が、主人の子孫に叱られて消え去ったは、全く主人の所望にことごとく応ぜなんだ故で、矜羯羅《こんがら》よりは制※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]迦《せいたか》に近い、かかる如意使者は、欧州の巫蠱《ふこ》(ウィチクラフト)また人類学にいわゆるファミリアール(眷属鬼)の一種で、諸邦眷属鬼については、『エンサイクロペジア・ブリタンニカ』一九一〇年版、六巻八頁に説明あり。
一九一四年版、エントホヴェンの『グジャラット民俗記《フォークロール・ノーツ》』六六頁に、昔インドモヴァイヤの一農、耕すごとに一童男被髪して前に立つを見、ある日その髪を剪《き》り取ると、彼随い来って復さん事を切願すれど与えず、髪を小豆納《あずきいれ》の壺中に蔵《かく》す。爾来彼童僕となって田作す、そのうち主人小豆|蒔《ま》くとて、童をして壺《つぼ》より取り出さしむると、自分の髪を見附け、最《いと》重き小豆一荷持って主人に詣《いた》り、告別し去った、この童はブフット鬼だったという。ブフットすなわち上に引いた部多《ヴェータラ》かと思うが、字書がなき故ちょっと判らぬ、とにかくこれも如意使者の一種、至って働きのない奴《やつ》に相違ない。
これでまず竜宮入り譚の瑣末《さまつ》な諸点を解いたつもりだ。これより進んでこの譚の大体が解るよう、そもそも竜とは何物ぞという疑問を釈こう。
竜とは何ぞ
昔孔子|老※[#「耳+(冂<はみ出た横棒二本)」、第3水準1−90−41]《ろうたん》を見て帰り三日|談《かた》らず、弟子問うて曰く、夫子《ふうし》老※[#「耳+(冂<はみ出た横棒二本)」、第3水準1−90−41]を見て何を規《ただ》せしか、孔子曰く、われ今ここにおいて竜を見たり、竜は合《お》うて体を成し散じて章を成す、雲気に乗じて陰陽は養わる、予《われ》口張って※[#「口+脅」、144−
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