し毎々《つねづね》この国を荒らし廻る二鬼を平らげしめるに縫工|恐々《こわごわ》往って見ると二鬼樹下に眠り居る、縫工その樹に昇り上から石を落すと鬼ども起きて互いに相棒の奴の悪戯《いたずら》と早合点し相罵り同士討ちして死におわる、縫工還って臣一人で二鬼を誅したと奏し国王これを重賞した、次に一角獣現じ国を荒らすこと夥《おびただ》しく国王また縫工してこれを平らげしむ、縫工|怖々《こわごわ》に立ち合うと一角|驀然《まっしぐら》に駈け来って角を樹に突っ込んで脱けず、縫工幸いに樹の後に逃れいたが、一角さえ自在ならぬと至って弱い獣故たちまち出でその角を折り一角獣を王の前へ牽《ひ》き出した、次に類似の僥倖《ぎょうこう》で野猪を平らげ恩賞に王女を妻に賜うたとある、前に述べた亀が諸獣を紿《あざむ》いた話に似たのはわが邦にも『古事記』に因幡《いなば》の素兎《しろうさぎ》が鰐《わに》を欺き海を渡った話がある、この話の類譚や起原は正月十五日か二月一日の『日本及日本人』で説くつもりである。
(大正四年一月一日および四日、『牟婁新報』)
底本:「十二支考(上)」岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年1月
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