るは妙なり、その爪と見ゆるは実は蹄《ひづめ》で甚だ犀《さい》の蹄に近い(ウッド『博物画譜《イラストレーテッド・ナチュラル・ヒストリー》』巻一)。却説《さて》兎と熟兎は物の食べようを異にす、たとえば蕪菁《かぶ》を喫《くら》うるに兎や鼠は皮を剥《は》いで地に残し身のみ食うる、熟兎は皮も身も食べて畢《しま》う。また地に生えた蕪菁を食うに鼠は根を食い廻りて中心を最後に食うに熟兎は根の一側から食い始めて他側に徹す(ハーチング、六頁)。ストラボンの説に昔マヨルカとミノルカ諸島の民熟兎|過殖《ふえすぎ》て食物を喫《く》い尽くされローマに使を遣《つか》わし新地を給い移住せんと請うた事あり、その後熟兎を猟殲《かりつく》さんとてアフリカよりフェレット(鼬《いたち》の一種)を輸入すと、プリニウスはいわくバレアリク諸島に熟兎|夥《おお》くなって農穫全滅に瀕しその住民アウグスッス帝に兵隊を派してこれを禦《ふせ》がんと乞えりと、わが邦にも狐狸を取り尽くして兎|跋扈《ばっこ》を極め農民|困《くる》しむ事しばしばあるが熟兎の蕃殖はまた格別なもので、古く地中海に瀕せる諸国に播《ひろ》がり十九世紀の始めスコットランドに甚
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