フ藻は流水や噴泉で不断|盪《あら》わるる処に生えるがその胞子が偶然止水中に入って困《くる》しんだ余り一計を案じ魚に託生してその魚が游《およ》ぐとちょうど生活に必要なほどな振動を受け動水中にあると同然に活きいたのだ。それと等しくヒルデプランチアも元海に生えたが繁殖の余勢で淡鹹両水の雑《まざ》った江に侵入しそれから高地の急流や滝が岩を打つ勢いちょうど海波が磯を打つに均《ひと》しき処に登って生存し居るらしい、濠州辺で鮫が内地の淡水湖に進入したりインドや南米に川にばかり棲む鯨類があるような事だ、さてこのヒルデプランチアの胞子は多くの緑藻や褐色藻の胞子と異なり自ら游いで適当の地に達し得るものでないので、海から高地まで登るに胞子は急流で洗い落とされほとんど無用だ。その故か予は岩壁生のこの藻に胞子あるを見た事がなく、普通に藻の細胞体から芽を出し拡げて殖え行くのだ、大和北山の田戸附近ですこぶる高い滝の下方からこの藻が二丈ばかり登り懸けたのが極めて美観だったのを見た、また那智で一丈四方ほどの一枚|巌《いわ》全くこの藻を被《かぶ》りそれから対岸の石造水道を溯って花崗石作りの手水鉢《ちょうずばち》の下から半
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