イとく銭財を貧民に施し父母と妃の止むるを固辞し、山に入って仙人に従学す、母夫人時々美膳を送りて供養す、太子が修道する山の深谷に牝虎あり、新たに七子を生む、時に大雪降り虎母子を抱き三日食を求むれども得ず、飢寒極めて虎母その子を※[#「※」は「くち+敢」、38−9]《くら》わんとす、五百の道士これを見て誰か能く身を捨て衆生を救わんと相勧む、太子聞きて崖頭に至り虎母子を抱いて雪に覆われたるを見、大悲心を発し寂然定《じゃくねんじょう》に入りて過去無数|劫《こう》の事を見、帰って師に語るらく、われ昔願あり千身を捨てんと、すでにかつて九百九十九身を捨てたれば、今日この虎のために身を捨てて満願すべしと、師曰く卿《けい》の志願妙なり必ずわれに先だちて得道すべし、得道せばわれを遺《わす》るるなかれと、師と五百道士と涕泣して太子を送り崖頭に至れば、太子種々その身の過悪を訶責し今我血肉を以てかの餓虎を救い舎利骨のみ余《のこ》されん、わが父母後日必ず舎利を収めて塔を建て、一切衆生の病《やまい》諸薬針灸癒す能わざる者来りてわが塔を至心供養せば、即日必ず除癒《なおる》を得んと誓い、この言虚しからずば諸天|香華《こ
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