九巻に陳氏義興山中に家《す》む、夜虎門に当って大いに吼《ほ》ゆるを聞き、開き視《み》れば一少艾衣類凋損《ひとりのむすめきものそこね》たれど妍姿傷《みめそこ》ねず問うてこれ商人の女《むすめ》母に随い塚に上り寒食を作《な》すところを虎に搏たれ逃げ来た者と知り、見れば見るほど麗《うつく》しいから陳の妻が能《よ》くわが子婦たらんかと問うと諾した。依ってその季子に配す。月を踰《こ》えてその父母尋ね来り喜び甚だしく遂に婚姻を為し目《なづ》けて虎媒といったとある。
 虎を殺した者を褒《ほ》むるは虎棲む国の常法だ。秦の昭襄王《しょうじょうおう》の時白虎害を為せしかば能く殺す者を募る、夷人|※※[前の「※」は「にくづき+句、後の「※」は「にくづき+忍」、16−15]《くじん》廖仲薬《りょうちゅうやく》[#底本ではルビの「りょうちゅうやく」が「こうちゅうやく」と誤記]秦精《しんせい》等|弩《いしゆみ》を高楼に伏せて射殺す、王曰く虎四郡を経《へ》すべて千二百人を害せり、一朝これを降せる功|焉《これ》より大なるはなしとて石を刻んで盟を成したと『類函』に『華陽国志』を引いて居るが、かかる猛虎を殺した報酬に石を刻
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