ペルの外国見聞録には、達磨が切捨たまぶたからはえた植物の葉を用ふると眠くなくなつた、その葉のヘリにマツゲ様の歯ありてマブタに似をる、是が茶の初まりだと日本で聞いたと、存分人を茶にした話を記す。
 
 オランダ石竹[#「オランダ石竹」はゴシック体]
 英語でカーネイションといふは肉色の義で、その花の色によると説くが、本《もと》はコロネイションといつたので、昔、花冠にしたから冠といふ意味が正しき由。花の香が丁子の様だからイタリーでジロフリエル、英国で中世ジロフル、共に丁子花の義だ。チョーサーの詩などにある通り、十四世紀頃専ら酒を匂はし、又、料理にも高価の丁子に代用した。この花の砂糖漬は非常な強壮剤で、時々食へば心臓を安んじ、又熱疫を治すといふ。イタリーの百姓、これを熱愛の象とし、彼得《ペルピトロ》尊者特に好むとて、その忌日(六月廿九日)をカーネーション日と称ふ。
 石竹はもと瞿麦と別たず、日本でも撫子、又は常夏《とこなつ》は撫子属の諸種の総称だつたが、後には花びらの歯が細く裂けたを瞿麦、和名ナデシコ又、常夏、細く裂けぬを石竹と日本で定めた。清少納言が、なでしこ、唐のは更なり大和もいとをかし
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