町の店の人たちが、せわしそうに働《はたら》くだけで、自分なんかには目もくれなかったことをふと思い出しました。
「東京って、そんな生《なま》やさしいとこじゃないよ。みんなぶっ倒《たお》しっこをして暮《くら》しているんだ。しかし、おまえみたいに帰る家もなくっちゃ困《こま》っちまう。しかたがない、わしの家も当分《とうぶん》はまだせわしいから手伝《てつだ》っていな。そのうち、どこか小僧《こぞう》にでもいったらいいだろう。」
おやじさんは親切《しんせつ》にいってくれました。
三
清造はその日から、小さな凧屋《たこや》の小僧になりました。おやじさんは親切ないい人でした。夜になって夜なべ仕事[#「夜なべ仕事」に傍点]などをしているときには、いろいろ昔《むかし》のおもしろい話などを聞かせてくれました。そうして、町の中に、こんなに電信柱《でんしんばしら》やなにかが立たなかった時分《じぶん》には、東京でも、どんなに大きな凧《たこ》を上げたかを話したりして、
「しかしもう、これから凧屋《たこや》はだめだ。おまえなんかも、なにかいい好《す》きなことを考えた方がいいよ。」
といいました。それを
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