みえだしたのです。ここにおいて、彼らは急にわが国にはわが国独特の目標がなければならぬということを高調するに至りましたけれども、元来単なる模倣者、輸入者たるにすぎざりし彼らには遺憾ながら創造力がとぼしい。独自性が足りなかった。それがため、彼らはそのみずから高調するわが国独特の目標を自力をもって創造することができないで、再び「伝家のさび刀」をかつぎだしました。そうしてそれに「淳風美俗」とか「剛健質実」とかいう名をつけて、これこそは国民を指導すべきわが国独特の目標であると唱えはじめたのです。そうして、彼らが明治において行った指導的職能を今日もなお保持し実行せんとしています。なるほど、彼らの主張する「淳風美俗」も「剛健質実」も、それ自体たしかにいいことに違いありません。しかしながら、この刀は彼らみずからがあまりに長くこれをしまっておいたために、お気の毒ながらさびています。また彼らがその刀をしまっておいた間に、世の中はもう遠く刀の時代を去って、一六インチ砲や飛行機の時代となりました。もしも、彼らの刀がさびていない精神のこもったものであるならば、あるいはこれをもって一六インチ砲と戦うことができるか
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