。このことは現在の行政庁系統の役人によって権利を害された場合につき最も多くみる例であって被害者は結局泣き寝入りになるのほかない。したがって役人は法律によってしばられているものの、国民に対する関係においては、法律上ないしは事実上なお大きな「専断力」をもっているのです。しかし、役人にかかる専断力を与えるのは制度の必要上やむなきに出た事柄であって、いささかたりとも役人がその専断力を濫用することは事物本来の性質上断じて許すべからざるところなのです。しかるに役人はややともすれば、事をビジネスライクに運ぶため、またはその威儀を保つために、専断力を濫用します。それはきわめて恐るべきことです。いったい法律上または事実上、専断力、モノポリーの力をもっている者は大いに慎まねばなりません。なぜならば、常に必ず多少のむりがきくからです。けれども、それはその者にとって最も危ないことなのです。ところが役人はややともすれば、それをやりがちなものであって、その結果、国家までをも国民憎悪の的たらしめるに至るのです。
 国家は法律の府です。けれどもまた同時に、われわれ「人間の世界」にきたってともに事をします。したがって、
前へ 次へ
全44ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング