と、「人間の世界」と違った考え方をするようになる。むろん、その昔、役人が「人間の世界」とは全く離れた「役人の世界」に住んでいたころには、その全生活が公私ともにすべて「人間の世界」のそれとはかけ離れたものでありました。これに反して、今の役人は「法律の世界」に入ったときだけ特別な考え方をする。そうして一時「人間の世界」から離れる。または少なくとも離れねばならぬもののように考える。これははたしてなにゆえであろうか。
 その原因はいろいろあります。しかし、そのうち最も大きい原因は、すべていかなるできごとでもそれが役人の目に触れるときにはすでに「法律の世界」のことに化していることにあるのだと思います。元来は人間の世界に起こった事柄でも、それが役人の目に触れるのはいよいよ役所の門をくぐってからである。したがって役人がひとたび役所の門をくぐると、「法律の世界」のこと以外なにものにも接しなくなる。そこで「人間の世界」にあっては、よき夫であり、よき友であり、よき市民である人も、ひとたび役人として行動することになると、ともすれば「法律の世界」に特有な考え方のみをするようになるのです。そうして役人は公私を混
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