同じものの考え方をするということです。それでこそ人民は安んじて国家に信頼することができるのであって、「役人」を「人間の世界」から採用する今日の制度の妙用は実にこの点にあるのです。

       九

 法治主義のもとにおける最小限度の要件は「役人」がわれわれとだいたい同じような考え方をしてくれるということです。「役人」もわれわれと同じように、美しきを見ては美しいと思い、悲しきを聞いては悲しいと泣いてくれてこそ、われわれも安心できるのである。ところが現在の実際はともすれば、この理想を離れがちになります。それははたしてなぜでしょうか? 私はそれを解して、せっかく「人間の世界」から借りてきた「役人」が、その昔「役人の世界」に住んでいた代りに、今度はまた新たに「法律の世界」という新しい別世界に住みたがるためだといいたいのです。すなわち、せっかく骨を折って作り上げたデモクラシーが精神を失って再び官僚主義におちいらんとしているためだといいたいのです。
 せっかく役人を「人間の世界」から借りてくることを発明して、人間と法律との親しみを作ろうと考えた。ところが、その役人がひとたび「法律の世界」に入る
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