、議員、裁判官、弁護士らは平素あまりに法律に近づきすぎる。その結果ややもすれば、法律をもって百般を律しやすい。「常識」と「良心」とによって、これを判断することを忘れやすい。私は近時の議会その他政治界をみてことにその感を深くするのです。
私はこの際世人一般はもとより、法律家ことに役人は、かのキリストのいった「カエサルのものはカエサルに返せ、神のものは神に返すべし」という言葉を深く味わわねばならぬと思います。
八
普通の人間が「法律の世界」に入ってみても別にたいして驚かない、「人間の世界」におけるとだいたい同じように事が運んでいる、ということになっていなければ、法律と国家との威信はとうていこれを保ちがたい。法律と社会との問に溝渠ができることは国家の最も憂えるところでなければならない。かくのごときは国家の不徳です。国家は全力を尽くしてその救治をはからねばなりません。
古来、暴君はしばしばその救治策として「道徳」を命令してみました。そうして人民をして暴君みずからの欲する法に近づかしめようとはかりました。現在わが国の政治家、ことに警察ないし司法に関係している役人の中には、
前へ
次へ
全44ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング