実多少なりとも国家に向かって不満をいだくとすれば、それは「国家」すなわち国家を代表する「役人」の罪である。「国家」をしてかくのごときものとみえしめている「役人」の罪である。
役人も個人としてみれば――多少の例外を除くほか――すべて普通の人間です。立派な同胞であり、親であり、夫であり、子であります。ところが、それがひとたび「国家」を代表して外に対するときは突如として一変します。その際の「彼」は単なる「役人」であって、その本来の「個人」とは全く縁のないものになるのです。そうして従来の官吏道徳においては役人がかくのごとくになればなるほど、「公平無私」だとか、「忠誠恪勤」だとかいってそれを賞めるようです。しかし、いったい事はそれでいいのでしょうか? 私は心からそれを疑うのです。
むろん役人はみだりに私情をはさんで不公平やわがままをしてはなりません。なぜならば、彼らはそういう目的のために役人の地位を与えられているのではありませんから。けれども、さらばといって、彼らが「国家」を代表する際には、全く人情も忘れ人間味を離れて、いわゆる「公平無私」の化身になりさえすればいいかというに、否、決してそう
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