えすれば官吏にもなれる、一流会社にも採ってもらえることだけは確かであったから、わかろうがわかるまいが一生懸命にノートをとって受験の材料をこしらえるのであるが、こんなことをしているうちに少し心掛けよく本式に勉強した者は、いつとはなしに段々と法学が何であるかを理解して、自然学習に興味を持ってくるようにもなる。しかし私の知っている限り、かなり多数の学生は、卒業するまで何のために法学を学んでいるかを呑み込むことができず、そのため平素はノートを作ることにのみ苦労し、試験期になればそれを丸暗記することに苦労したのが、その頃の実情であった。
 もっとも、法学部に入ってくる学生のことだから、彼らのすべてが初めから法学に多少とも興味を持っているに違いないと思うのがそもそもの間違いで、学生の多数は、法学に志しているのではなくして、単に法学部を卒業すること、そしてできればなるべく良い成績で卒業することを志しているにすぎないから、彼らにとっては、学問そのものはどうでもよいのである。だから、卒業後司法官や弁護士のような法律関係の職業に向おうとする少数の学生以外の者にとっては、学問は要するに受験の具にすぎなかった
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