から、いつまでたってもなかなか学問そのものを理解できるようにならないのは当然である。
 ところで、大学の教育はどうであるかというと、理科や医科のような自然科学系統の学部はもとより文学部のようなところでは、大体そこに入学してくる学生は、初めからその学ぼうとする学問について少なくとも常識程度の知識を持っているのが普通であるように思われるのであるが、法学に志して法学部に入ってくる学生の場合は、一般に事情が著しく違うように思う。私などは、父が長年司法官をしていた関係上、普通一般の学生に比べればかなり法学についての予備知識を持っていた筈であるが、それでさえ、いよいよ入学してみると甚だ腑に落ちないものがあった。どうも自分が予期したものとは大分違った学問を教えられているような気がして、甚だ取っ付きが悪い。仕方がないから先生の講義することをそのままノートすることはしたものの、当分の間は五里霧中で、何のために講義を聴くのだか、全く見当がつかないようなありさまであった。
 こういう次第だから、私ほども予備知識を持たない普通一般の学生の迷惑は、恐らく非常なものであったろうと思う。それでも、ともかく大学を出さ
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