期間が相当なりや否や、を適当に教えることは実際上不可能です。いうまでもなく、これは学者の領分外です。裁判所の領分に属すべきものです。ところで日本の大審院はこれをどう判決したかというと、七日の期間が相当なりや否やは一概には決められない。この息子がその婦人と数年このかた同居している。この同居している事実を父親は是認しているのか。それとも父親は今日といえども従来どおり、ひきつづいて反対しているのか。そのいずれかで結論が違う。親がもともと認めて同居していたのだとすれば、わずか一週間で帰れというのはむりである。これに反して、親が早く帰ってこいこいと始終いいつづけて反対していたのならば、一週間といえども決して短くないと、こう判決を下しております。私はこれをもってまことに人情にかなった結構な判決だと思いますが、かくのごとき解決は学者が机の上で考えてはとうてい出てきません。やはり裁判官が本舞台に出て実際の事実をみて初めて考えつく考えです。
 判決というものが、すべてこんなものだとは限らないのですが、とにかく実際の事実と離れない、いうにいわれぬ趣きのあるものです。ですから私はかようの判決をたくさん集めた
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