恵をふるって書いたのでは、いかに立派な小知恵の持ち主にやらせてもうまくいくわけがない。そうしてその案がやがて同じく知恵一点張りの法制局あたりをまわった上議会を通過する、これではたしていい法律ができるでしょうか。私は大いに危ぶむのです。それでは真に社会の実情に適合した法律のできるわけがないのです。それから次に今の立法者――世の中でいわゆる官僚と称される方々――は非常に世論なるものをばかにしておられます。ですから法案はなるべく秘密にすればするほどいいと考えておられます。なるほど世論は理屈に合わないものです。しかし世の中のことをすべて理屈に合わせようと思えば、しゃくにさわって仕方がなくなる、できない相談だからです。しかしながら、法律は理屈だけで動くものではないと同時に、世論といえども決してばかにすべからざるものである。決して軽視することは許さざるものである。世論は理屈の代表者ではない。しかし世論にはなんともいわれない大きな価値がある。そこに人情の機微に触れた微妙な力強いところがあるのです。それを基礎にして法律を作らないで、どこに人間の気持ちに合う、本当の法律を作りうるか。法案を立てる人が、我
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