轤ホ、問いの中に与えられた数字のすべてをして――たとえかりにでも――既知数たらしめなければ、学問的に正確な答えを得ることはとうてい不可能だからです。しかし、その際利用すべき仮説は十分の実験の上に立った十分のプロバビリティーをもったものでなければならぬはずです。しかるに、従来の法学者や経済学者は本来Xたるべき人間をやすやすとAなりBなりに置き換えて、人間は「合理的」なものだとか、「利己的」なものだとか、仮定してしまいます。かくして、学者は容易に形式上だけはとにかく、正確(?)な答えを得ることができましょう。しかし人間は、合理的であるが、同時にきわめて不合理な方面をも具えており、また利己的であるが、同時に非利己的な方面をも具えている以上、かくして軽々しく仮定された「人間」を基礎として推論された「結果」が一々個々の場合について具体的妥当性を発揮しうるわけがないのです。
 そこで私は、少なくとも法学の範囲においては、「人間」はやはり、ありのままの「人間」として、すなわち、本来の未知数Xとして、そのまま方程式の中に加うべきだと思います。むろん、われわれは人類多年の努力によって得た実証的の知識を基
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