は考えています。しかし世の中の「専門家」はとかくこの点を間違えやすい。世の中の人々も、普通にその同じ間違いを繰り返して「専門家」の「素人考え」を不当に尊敬します。私は全く変だと思います。
 私は法律学者です。ですから「法律」および「学問」についてだけはともかくも「専門家」として意見を述べる資格があるのです。だから今ここに「嘘の効用」と題して嘘をいかに処理すべきかという問題を考えるにしても、議論はむろんこれを「法律」および「学問」の範囲内に限りたいと考えます。一般の道徳ないし教育などに関する問題として、いかにも「玄人」らしく意見を述べることはどうも私のがらではありません。
 「法律」の上で、また「学問」一般について、「嘘」は善かれ悪しかれいろいろの働きをしています。それを考えてみることは、ひとり「法律家」にとってのみならず、一般の人々にもかなり興味あることだと思います。ことに私は、私の「法律」および「学問」に対する態度を明らかにするがためには、この「嘘の効用」についての、私の考えを述べることがきわめて重要であり、少なくとも大いに便利だと考えているのです。それが、私のこの稿を起こすに至った
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