「真実の解決方法いまだ備わらざるに先立って擬制を捨てよというのは、あたかも松葉杖をついた跛行者に向かって杖を棄てよというにひとしい」といい、また「もしも世の中に擬制というものがなかったならば、後代に向かって多大の影響を及ぼしたローマ法の変遷にしても、おそらくはもっとはるか後に至って実現されたものが少なくないであろう」といっております。
しかし、「擬制」が完全な改正方法でないことはイェーリングも認めているとおりです。「擬制」の発生はむしろ法律改正の必要を、否、法はすでに事実上改正されたのだという事実を暗示するものとして、これを進歩の階梯に使いたいのです。ことに嘘つきには元来法則がありません。ですから、裁判所がこの方法によって世間の変化と法律との調和を計ろうとするに際して、もしも「嘘」のみがその唯一の武器であるとすれば、裁判所が真に信頼すべき立派な理想をもったものである場合のほか、世の中の人間はとうてい安心していることができません。かりにまた真に信頼すべき立派な理想の持ち主であるとしても、これのみに信頼して安心せよというのは、名君に信頼して専制政治を許容せよというにひとしい考えです。フラ
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