つもなお離婚の判決をくだすのである。ですから、西洋でも実際においては当事者双方の協議によって離婚が行われている。そうしてその際使う道具は一種の「嘘」、一種の芝居です。
 法律は人間のために存するものです。人間の思想、社会の経済的需要、その上に立ってこそ初めて法は真に行われるのです。かつては、社会の思想や経済状態と一致した法であっても、その後、社会事情が変わるとともに法は事実行われなくなる。また立法者が社会事情の真相を究めずしてむやみな法を作ったところが、それは事実とうてい行われない。離婚は悪いものだという思想が真実社会に現存しているかぎり、協議離婚禁止の法律もまた厳然として行われる。しかしひとたび、その思想が行われなくなると、法文上にはいかに厳重な規定があっても、実際の需要に迫られた世人は「嘘」の武器によってどんどんとその法律をくぐる。そうしてことはなはだしきに至れば法あれども法なきと同じ結果におちいるのです。
 同じことは官吏の責任の硬化現象からも生じます。役人といえども飯を食わねばなりません。妻子も養わねばなりません。やたらに免職になっては妻子とともに路頭に迷わなければなりません。
前へ 次へ
全46ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
末弘 厳太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング