場へ曳いて行った網代の枠のようなもの。
フランス国王リューイスが……なせる戦争 「リューイス」は「ルイ」を英語風に言った名であって、ここではルイ十六世をさす。一七七五年にアメリカ独立戦争が始り、一七七八年にルイ十六世はアメリカ合衆国を承認し、その支援に軍隊と艦隊とを送って、イギリスと交戦状態に入った。その状態は一七八三年まで続いていたのである。
大洋がいつかはその中に沈んでいる死者を………… 新約全書ヨハネ黙示録第二十章第十三節に「海その中の死人を出し‥‥彼等おのおのその行いに循いて審判《さばき》を受けたり。」とあることから言ったのである。
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〔第三章 当外れ〕
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君はかつて………… 以下、被告の弁護士が相手方の証人のジョン・バーサッドに向って質問をするのである。すなわち対質訊問をするのである。
階段から蹴落されたこと 何か不正なことなどをして家から蹴出され放逐されることを意味する。
ブーローニュ カレーの西南にある、やはりドーヴァー海峡に面したフランスの海港。
ジョージ・ウォシントンは歴史上ジョージ三世と………… ジョージ三世は第一巻の註に記したように当時のイギリス国王である。後に合衆国の初代の大統領となったジョージ・ウォシントン(一七三二―一七九九)は当時アメリカ軍の総指揮官であって、独立戦争開戦以来各地に転戦していた。
対質訊問 相手方のために召喚されて調べられる証人に対して反問すること。
呪うべきユダ 銀三十枚を得てキリストを売りユダヤの有司に渡して磔にさせたイスカリオテのユダ。
指の節を額に触れる 尊敬または認知のしるしである。
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〔第四章 祝い〕
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バスティーユ 往時パリーにあった有名な牢獄。主として国事犯罪人を収容した。一七八九年フランス革命が起ると同時に民衆に破壊されたことは普く知られている。サン・タントワヌ門の傍にある。マネット医師はこの牢獄に監禁されていたのである。
彼の顔はダーネーをひどく詮索的な眼付で………… マネット医師がチャールズ・ダーネーの顔に何を認めてこのような表情をしたのかは、この物語の終り近く(第三巻第十章)にならなければ判明しない。
放免された囚人の友人たち 当日の法廷の見物人を戯れて言ったのであろう。
轎 一人乗りで二人の轎夫《かごかき》が棒で肩に担いで運ぶもの。十七八世紀にヨーロッパの諸都市で流行した。
ポルト葡萄酒 ポルトガルのオポルト原産の有名な葡萄酒。
ラッドゲート・ヒル オールド・ベーリーのあるニューゲート街の南に、聖《セント》ポール寺院から西に通じている街路。フリート街に続く。そのフリート街の南にはテムプルがあり、その西端にはテムプル関門があるのである。
一パイント わが三合余に当る。
蝋垂れが………… イギリスでは、蝋燭の蝋垂れの垂れ落ちる方向にいる人の身の上に凶事殊に死が来る、という迷信がある。
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〔第五章 豺〕
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ポンス 酒、砂糖、牛乳、レモン、及び香料などを混和して製した飲料。
民事高等裁判所 または単に高等裁判所、あるいは最高民事法院、または単に高等法院とも訳される。原名では「王座裁判所」と言われ、イギリスの最高の裁判所であった。ゆえに、ストライヴァーはオールド・ベーリーも普通刑事裁判所も自分の出世の「梯子の下の方の段」として関係を断とうとしていたのである。
仮髪の花壇 仮髪を著けている裁判官、弁護士たちの席を意味する。
ヒラリー期からミケルマス期までの間に イギリスではもと高等法院の開廷期が四期に分れていた。ヒラリー期(一月十一日から同月三十一日まで)、イースター期(四月十五日から五月八日まで)、トゥリニティー期(五月二十二日から六月十二日まで)、ミケルマス期(十一月二日から同月二十五日まで)である。ゆえに「ヒラリー期からミケルマス期までの間」とは、厳密に言えば一月十一日から十一月二十五日まで、すなわち高等法院の約一箇年間をさすのである。
巡囘裁判 昔は裁判官が折々田舎を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って裁判した。その時は弁護士もその裁判官に附随して巡囘した。
豺 豺は獅子のために餌をあさりその報酬として食い残りの骨片を与えられるという昔からの言伝えがあるので、「豺」という語は、他人のために下働きをする者、人の手先となって働く者、という意味に使われる。
ストライヴァーの事務室に………… 第二巻第一章の「テムプル」の註に記したように、テムプルには法学会院がある。その法学会院内には弁護士の事務室がある。大抵数室より成る。
ジェフリーズ この物語の時代から百年ほど前の、残忍と放逸とをもって有名であった裁判官ジョージ・ジェフリーズ(一六四八―一六八九)をさす。
シュルーズベリー学校 イングランドの西部、ウェールズに近いシュルーズベリーの町にある小学校。一五五二年に創立されたという古い歴史を持っているので有名である。
河 テムズ河である。テムプルはテムズ河の畔にある。
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〔第六章 何百の人々〕
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ソホー広場 ロンドンのオックスフォド街の南にある広場。附近は外国人が多く居住していた。テムプルから一マイルほど隔っている。当時はそのあたりまでが市内であった。
クラークンウェル ロンドンの本市の北にある区域。住宅地である。当時は市外であった。
オックスフォド街道 ロンドンの西部と本市とを繋ぐ大街道。当時はこの街道から北はことごとく市外であった。
南向きの塀が………… 果樹を南向きの塀のところに植えておくと、暖かいために果実がよく熟するのである。
この巨人は表広間の壁から金色の片腕を………… この巨大な金色の片腕というのは、金細工師の看板なのである。それをこのように滑稽に説明したのである。
この時分までには……あの一種特別の表情 その家具類の配置などの「創案者」であるリューシーの額に現れるあの特殊な表情をさす。
自分の周囲のどこにも目につくその空想上の類似 家具とリューシーとの表情の類似。
プロス嬢 「嬢」の原語の「ミス」は、未婚婦人の名に冠する敬称であって、このプロス女史は年齢がもうあまり若くはないのであるが、日本語には完全な訳語がないので、老嬢という意味で「嬢」と訳することにする。
応報の排列表 人の行為の善悪に対しての来世における応報についての順番表というような意味。
ゴール人の子孫 フランス人のこと。ゴールは今のフランス及びその近隣の地域にわたって古代にあった国で、フランス人のことを戯れてゴール人とも言う。
シンダレラの教母 シンダレラは有名なお伽噺の女主人公で、彼女は継母や姉妹たちに虐待されながら台所で働いていたが、妖精であるその教母がシンダレラに魔法で美装させて王宮の舞踏会に行かせ、王子に恋されたシンダレラは魔法の消える夜半に宮殿から逃げ帰るが、自分の小さな上靴を落して来たことから遂に王子と結婚することになる。ここに「シンダレラの教母」と言ってあるのは、その教母が宮殿の舞踏会に行くシンダレラのために魔法で南瓜を馬車に、※[#「鼠+奚」、第4水準2−94−69]鼠を馬に、襤褸著物を美服に変えたからである。
青い部屋 フランスの中世紀の有名な物語にある青髯という男が、幾度も結婚してその妻を皆殺し、死体を青色の部屋に隠しておいて他の者に入るのを許さなかったということから、誰をも入れなかったプロス嬢の室を諧謔的にこう言ったのであろう。
ロンドン塔 ロンドンのほぼ中央のテムズ河北岸にある古くから有名な建築物。一〇七八年に建築され始め、後次第に増築されたのである。初めは城廓として築造され、王宮として用いられた時代もあったが、永い間政治犯の牢獄として用いられていた。その後種々の観覧物の陳列所や武器庫となった。
あなた方も御存じのように、私はあすこへ………… ダーネーは例の叛逆罪の廉で捕えられていた時にしばらくロンドン塔に監禁されたのであろうか。
DIG 英語の「掘れ」という語。
彼は片手を頭へやって突然………… マネット医師がなぜこの時このような挙動をしたかは、この物語の終りの方(第三巻第九章)に至って明かになる。
聖ポール寺院 ロンドン市の中央にある大寺院。ソホー広場の東方約一マイル半、クラークンウェルの南にある。
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〔第七章 都会における貴族〕
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モンセーニュール フランスで貴族や高僧などに対して用いた敬称であり、「閣下」、「殿下」、「猊下」の意味に当るフランス語である。その語を作者はフランス貴族の擬人法として用いたのであって、ここでは、「モンセーニュール」は個人の名であると共に、また当時のフランスの貴族を象徴しているのである。後の章では、この語は本来の意味の通りに個人に対する敬称として用いられ、また、更に後の章では、フランス全貴族の代名詞としても用いられる。
チョコレート ここではチョコレート飲料をさす。チョコレートを砂糖湯または牛乳に溶かしたもの。
国を売った陽気なステューアト イギリス国王チャールズ二世(一六三〇―一六八五)をさす。ステューアトは、彼の法外な放逸の費用を得るために、フランス国王ルイ十四世から巨額の金銭を得て、国会の意志に反して、ルイ十四世のオランダに対する戦争においてフランスを援助するというドーヴァー条約を、一六七〇年に密かに締結した。このチャールズ二世は「陽気な国王」と綽名されていた。
「モンセーニュール曰いけるは、地とこれに盈てる物はわがものなり。」 新約全書コリント前書第十章第二十六節に「地とこれに盈てる物は主のものなればなり。」とある。その「主のもの」という原文の代名詞を「わがもの」と変えたのである。
収税請負人 フランスの王政時代に、一区域の租税を徴収する特権を政府から得て、その代償として政府に一定の額を支払い、その契約の定額以上に人民から搾取したものはことごとく自己の懐に収めることが出来た収税吏。この収税請負人はこうして人民を誅求して、大革命の前には人民にはなはだしく怨まれていた。
面紗をかぶる 修道院の尼僧になることを意味する。
バベルの骨牌塔 「バベルの塔」は、旧約全書創世紀第十一章に記されている、太古バビロンで天に昇るために建築しようとした高塔で、架空的の計画という意味に使われており、「骨牌塔」とは、骨牌札で築いたようなすぐに崩れる塔という意味であろう。
その社会の天使たち 上流社会の婦人たちをさす。その中にはさすがの間諜でも一人の母性をも見つけ出すことが出来ないほど、上流社会の家庭は乱れていた、というのがこの前後の意味である。
痙攣教徒 十七世紀頃フランスに起った一つの狂信的な宗派の信者。フランスにおけるヤンセン教徒の一派であって、痙攣的発作に陥ったりその他の奇怪な動作によって奇蹟的の治療を行うと称した。彼等はまたその痙攣的動作で未来を予言し社会を改善することが出来ると信じた。
類癇 全身硬直する病気。
テュイルリーの宮殿 以前パリー市の中央にあったフランス国王の宮殿。ルイ十四世時代からは華美を尽していた。
扁底靴 踵のごく低い、または踵のない、エナメル革の浅い靴。主として舞踏の時などに用いられるものである。
車輪刑 罪人の手足を車輪に縛って死に致した残酷な処刑。
ムシュー・パリー パリー市の死刑執行吏をこう言った。普通にはムシュー・ド・パリー。
監督派流儀に 未詳。この監督派というのはプロテスタント監督教会派をさすのであって、その唱道した監督制度主義とは教会の主権を法王のような一主権者に委ねないで教会の監督たちの手に委ぬべきであるとしたものであった。
一絞刑吏に
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