ですよ!」と彼は励ましたが、その頬には事務らしくもない一滴の涙が光っていた。「お入りなさい、お入りなさい!」
「あたくしあれが怖《こわ》いのです。」と彼女は身震いしながら答えた。
「あれとは? 何のことです?」
「あの方《かた》のことですの。あたくしの父のこと。」
彼女はそういう様子だし、案内者は手招きしているので、幾分やけ気味になって、彼は自分の肩の上でぶるぶる震えている彼女の腕を自分の頸にひっかけ、彼女を少し抱え上げるようにして、彼女をせき立てて室内へ入った。彼は扉《ドア》のすぐ内側のところで彼女を下し、自分にしがみついている彼女を支えた。
ドファルジュは鍵を引き出し、扉《ドア》を閉《し》め、内側から扉《ドア》に錠を下し、再び鍵を抜き取って、それを手に持った。こういうことを皆、彼は、順序正しく、また、立てられるだけの騒々しい荒々しい音を立てて、やったのであった。最後に、彼は整然たる足取りで室を横切って窓のあるところまで歩いて行った。彼はそこで立ち止って、くるりと顔を向けた。
薪などの置場にするために造られたその屋根裏部屋は、薄暗くてぼんやりしていた。何しろ、そこの屋根窓型の窓
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