意さまから他のお得意さまへと移ってゆきますようなもので。手短に申しますと、わたしには感情というものがございませんのです。わたしはほんの機械なんです。で、話を続けることにいたしますと――」
「でもそれはあたくしの父の身の上話でございましょう。あたくし何だか、」――と例の不思議な表情をする額が彼に向って熱心になりながら――「あたくしの母が父の亡くなりましてからたった二年しか生きていなくて、あたくしが孤児《みなしご》になりました時に、あたくしをイギリスへ連れて来て下さいましたのは、あなたでしたように、思われて参りました。あなたに違いないような気がいたします。」
ロリー氏は、彼の手を握ろうとして信頼するように差し伸べられた、ためらっている、小さな手を取って、それを幾らか儀式張って自分の脣にあてた。それから彼はその若い淑女をすぐにまた彼女の椅子のところへ連れて行った。そして、左手では椅子の背を掴み、右手を使って自分の頤を撫でたり、仮髪《かつら》の耳のところをひっぱったり、自分の言ったことを注意させたりしながら、立って、腰掛けて自分を見上げている彼女の顔を見下した。
「|マネット嬢《ミス・マネッ
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