の道を辿り、遅々として進捗しない。先へ進むに従って速度が速くなる。そのドーヴァー行の駅逓馬車を早馬で追いかけて来た使者のジェリーが、ロンドンのテルソン銀行のジャーヴィス・ロリーという乗客に「ドーヴァーにてお嬢さんを待て。」という簡短な手紙を渡し、「甦る」という奇妙な返事を受けて引返す。この章の筋はそれだけに過ぎないが、読者をも霧の中にいるような雰囲気の中に残す。

第三章 夜の影  この章では、馬車と別れてロンドンの銀行へ帰ってゆくジェリーと、馬車に乗ってドーヴァーへ向うロリーとが書かれているだけで、物語の筋は一向進展しない。ただ、読者にますます疑問と期待との感を抱かせる。「夜の影」とは原語では「夜の闇」の意味であり、それが彼等にとってその夜それぞれの形をなして現れる。ジェリーは生粋のディッケンズ的人物の一人である。ここでその容貌が作者一流の幾分誇張的で怪奇的《グロテスク》な戯画的手法でスケッチされる。ディッケンズは常に作中人物の容貌風采はもとより音声に至るまでもはっきりと想像したので、各主要人物のそれらを必ず書いている。甦るという言葉に悩まされるこのジェリーは秘密の商売を持っているの
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