出して、息《いき》もつかせずに侯爵閣下のところへ出した。
「その男は逃げ失せてしまったのか、この頓馬め、馬車が輪止をかけに停った時にな?」
「閣下《モンセーニュール》、奴は、川の中へ跳び込む人間のように、頭を先にして、丘の坂のとこるをまっさかさまに跳び下りてゆきましてござります。」
「それを調べてみろ、ガベル。馬車をやれ!」
 鎖を見つめていた例の六人の者は、羊のようにかたまって、まだ車輪の間にいた。その車輪が突然囘転し出したのだから、彼等が皮と骨とを助かったのは全く僥倖であった。その皮と骨との他《ほか》には彼等には助かるべきものはほとんどなかったのだ。でなければ彼等はそれほど運がよくなかったかもしれなかった。
 馬車は急に村から駈け出して、その向うの高台へと登って行ったが、その勢はまもなくその丘の嶮しさに阻まれた。次第に、馬車は速力が衰えて並足となり、夏の夜のいろいろの甘い香《かおり》の間をゆらゆらと揺れがたがたと音を立てながら登って行った。馭者たちは、無数の遊糸《いとゆう》のような蚋《ぶよ》があの蛇神復讐女神《フュアリー》に代って自分たちの周りをぐるぐる※[#「廴+囘」、第4水準2
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