、馬車が雲のような砂埃《すなぼこり》を立て燃殻《もえがら》のような臭いをさせながら丘を滑り下っている時、真赤な夕焼は急速に薄くなって行った。太陽と侯爵とは共に下《くだ》って行ったので、輪止が取り外された時には夕焼はもう少しも残っていなかった。
 しかし、そこには、断崖をなしたところも広々としたところもある起伏した土地、その丘の麓にある小さな村、その向うの広い見晴しと高台、教会堂の塔、風車、狩猟をするための森、牢獄として使われている堡塁が上に立っている断巌などが残っていた。夜が近づくにつれて暗くなってゆくこういうすべてのものを、侯爵は、いかにも家路に近づいている者のような様子で、ぐるりと見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。
 その村にはただ一筋の貧乏くさい街路があって、そこには貧乏くさい酒造場や、貧乏くさい製革所や、貧乏くさい居酒屋や、駅馬の継替えのための貧乏くさい厩舎や、貧乏くさい飲用泉や、普通の通りのすべての貧乏くさい設備があった。そこにはまた貧乏くさい村民もいた。その村民は皆貧乏であった。彼等の中には、戸口に腰を下して、夕食の用意に貧弱な玉葱などを細かく裂いている者も
前へ 次へ
全341ページ中261ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング