いう見分けがおつきになりましたか、旦那《ムシュー》?」とドファルジュが囁き声で尋ねた。
「つきました。一瞬間ですがね。最初はわたしはそれを全く望みがないと思いましたが、ほんの一瞬間、わたしが以前よっく知っていた顔を確かに見ました。しいっ! わたしたちはもっと後へさがりましょう。しいっ!」
 彼女は屋根裏部屋の壁のところから離れて、彼の腰掛けている腰掛台《ベンチ》のごく近くまで行っていた。手を差し出せば身を屈めて仕事をしている自分に触れるところにいる人の姿をも意識しない彼の様子には、何となくぞっとするようなところがあった。
 一語も話されなかったし、何の音も立てられなかった。彼女は彼の傍に精霊のように立っていたし、彼は仕事をしながら屈んでいた。
 そのうちに、彼は手に持っている道具を靴造り用の小刀《ナイフ》に持ち替える必要が出来た。その小刀《ナイフ》は彼女の立っている側と反対の側にあった。それを取り上げて、再び仕事にかかろうと屈んだ時に、ふと彼女の衣服の裾《スカート》が目についた。彼は眼を上げて、彼女の顔を見た。傍に見ていた二人の者ははっとして前へ出た。が、彼女は片手を動して彼等を制止し
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